充実シニアライフ-社会福祉士の私が選ぶ必須知識6選
充実したシニアライフを送るために知っておくべき知識を,社会福祉士の私が6つ選びました。
人は自らの「老い」を感じ始めるのは,50歳代でしょうか。壮年後期となれば,これまでの不摂生な生活習慣が健康診断結果に表われるとともに,体力の衰えや視力・聴力の感覚機能および記憶力の低下など,自らの「老い」について自覚せざるを得なくなります。
しかし,一般に人は「老病死」を不吉なことと考えており,できれば向かい合いたくはないのです。したがって,自分自身の健康も親の老化や病気も,「まだ大丈夫」,「何とかなる」と考えがちになります。
結果,その時は突然やってきます。
介護は突然やってくる
介護は突然やってきます。元気だと思っていた父親が脳梗塞で倒れ半身麻痺なる,母親が縁石につまずき大腿骨骨折から歩行障害になる,など耳にされることもあるでしょう。親世代はいつ何があっても驚くことではないのです。
例え,ご自身が40代や50代であっても,ひとり親家庭で無理をしてきた方や外食の多い独身男性などは,その生活習慣から脳血管系疾患(脳梗塞,くも膜下出血など)になるリスクが高く十分注意しなければなりません。
いったん事態が起きれば,急性期病院での対応(手術治療法の選択・入院等)も大変ですが,回復期リハビリ病院から自宅介護や施設介護へ(療養病床をもつ病院・診療所を経由する場合も)と進む中で,仕事の都合を付けながら,様々な課題をクリアしなければなりません。
当事者となり、頼れる家族や相談できる親戚が近く住んでいるという方は恵まれていますが、そうでない方は相当な負担がかかることになります。
事前知識や情報がないまま突然始まり、やらなければいけないことが山積する「介護問題」を少しでも軽減したいと思います。
事前知識と心構えをできるだけ簡潔にお伝えしたい。
お忙しい方は、ここに書かれたポイントだけ見てください。
介護が必要になった原因
まず,介護が必要となった原因を政府統計情報から確認します。
介護が必要になった原因 | 男 | 女 | 総数 |
認知症 | 15.2% | 20.5% | 18.7% |
脳血管疾患(脳卒中など) | 23.0% | 11.2% | 15.1% |
高齢による衰弱 | 10.6% | 15.4% | 13.8% |
骨折・転倒 | 7.1% | 15.2% | 12.5% |
関節疾患(リウマチなど) | 5.4% | 12.6% | 10.2% |
心疾患(心臓病) | 5.4% | 4.3% | 4.7% |
その他の原因・不詳 | 33.2% | 20.7% | 24.9% |
出典:厚生労働省 国民生活基礎調査(平成28年)の結果から
介護が必要となった原因(総数)は,
第1位:認知症
第2位:脳血管疾患(脳卒中など)
第3位:高齢による衰弱
第4位:骨折・転倒
第5位:関節疾患(リウマチなど)
となっています。
介護が必要となった原因(総数)第1位「認知症」ですが,この名称は特定の病名ではなく「記憶などの情報をつなぎ合わせて適切に判断ができなくなった状態」を指します。「認知症」の種類とおおよその比率は,脳の変性疾患であるアルツハイマー型認知症(68%),レビー小体型認知症(4%),病気や事故による脳血管性認知症(20%),脳の前頭葉と側頭葉に細胞萎縮が起こる前頭側頭葉型認知症(1%)が主なところです。「認知症」の原因としての比率は,老年期において加速度的に有病率が高くなるため,高齢化の進展とともに一層高くなっていくことが予想されます。また,「認知症」の近年の増加は,抗認知症薬の登場によって医師による認知症診断が増加し,病名として「認知症」が一般化したためとも考えられます。
男女別では,男性の特徴として第1位「脳血管疾患」,第6位「心疾患」で「突然倒れて後遺症が残り,要介護状態になる」というケースが多いことです。一方,女性の特徴は第1位「認知症」,第2位「高齢による衰弱」,第4位「関節疾患」であり,「突然倒れて…」ではなく「加齢に伴い次第に動けなくなり,要介護状態にいたる」ケースが多いということです。また,女性第3位「骨折・転倒」についても,その背景には骨粗しょう症が高齢期の女性に多いことから推測できます。
介護が必要となった原因
1位:認知症 2位:脳血管疾患(脳卒中など) 3位:高齢による衰弱
男性の特徴 :脳血管疾患(脳梗塞,脳出血など)や心疾患により,突然倒れて後遺症が残り要介護になる。
女性の特徴 :認知症,高齢による衰弱,関節疾患など,加齢により次第に動けなくなり,要介護にいたる。
健康寿命と「介護が必要な期間」
政府統計情報によると,男女の平均寿命(男:80.98歳,女:87.14歳)[2016]と健康寿命(男:72.14歳,女:74.79歳)[2016]の差つまり「介護が必要な期間」が,男性:8.84年,女性:12.35年となっています。[*1]
健康寿命:支援や介護を必要としない自立した生活が送れる期間
介護が必要な期間:支援や介護に依存しなければならない期間
「介護が必要な期間」が長くなると医療費や介護費もかかり,本人も家族も精神面だけでなく生活全般に影響が及びます。よって,私達は,自らの健康寿命を延ばし、「介護が必要な期間」が短くなるよう努力する必要があります。
そのためには,健康増進・疾病予防及び介護予防等によって,健康寿命を平均寿命の増加分以上に延伸させなければなりません。「介護が必要な期間」を短くすることは,ミクロ的には個人の生活の質の低下を防ぐという利点があり,マクロ的には社会保障負担の軽減が期待できます。
個々のケースでは無論バラツキはありますが,平均値から導き出される結果は以下のようになります。
健康寿命と「介護が必要な期間」
男性:元気なのは72歳まで,残り9年間は要介護の生活
女性:元気なのは75歳まで,残り12年間は要介護の生活
健康寿命を延ばす方法
健康寿命を延ばすには,介護が必要になった原因となるリスクを減らすことです。一方,主な死因の順位は,第1位「悪性新生物(がん)」,第2位「心疾患(高血圧性を除く)」,第3位「老衰」,第4位「脳血管疾患」,第5位「肺炎」でした。[*2] 死因第1位の「悪性新生物(がん)」や第5位「肺炎」は,「介護が必要となった原因」には登場しませんが医療行為の対象であり,これらに対処することは平均寿命の延伸につながります。
要介護の原因や死因となる病気の発症は,単に加齢だけでなく,毎日の生活習慣が深く影響しています。例えば,脳卒中(虚血性,出血性)は,喫煙,動脈硬化,高血圧などの生活習慣に起因する疾患であり,高齢女性に多い大腿骨骨折は,骨粗しょう症(骨密度の低下)が起因とされ、それらの予防には相応の生活習慣が求められます。
健康寿命を延ばすには,規則正しい食事,適度な運動,禁煙,ストレスコントロールを心がけて生活習慣病を防ぎ,定期的に人間ドッグなどを受診して,自分の体の状態を管理することです。
また,こころの健康を保つために,常に物事に関心を持ち,地域活動や趣味の集いなどを通して人との関わり合いを積極的にもつことを心掛けます。
ここは大事なところですので,もう少し詳しく説明させてください。
からだの健康を管理する
「スマート・ライフ・プロジェクト」をご存じですか?
「スマート・ライフ・プロジェクト( smart life project )」[*3]は,厚生労働省が推し進める,「健康寿命を延ばそう!」をスローガンに,国民全体が人生最後まで元気に健康に楽しく毎日が送れることを目標とした国民運動です。このプロジェクトには4つの柱があります。
それでは紹介します。
適度な運動 -毎日プラス10分の運動
生活習慣病の予防に必要な運動量は,歩くことなら男性で9000歩、女性で8000歩が目安だそうです。平均的な歩数から考えると1000歩足りないようです。時間にしてプラス10分の歩きで効果があるそうです。苦しくならない程度の早歩き,階段利用など,ちょっと汗ばむくらいの運動でOK。
適切な食生活 -1日あと70gの野菜をプラス
日本人は現在1日280gの野菜を摂っています。生活習慣病の予防ためには350gの野菜が必要です。1日に+70gの野菜摂取を心掛けましょう。あとトマトなら半個分,野菜炒めなら半皿分でOK。
喫煙・受動喫煙防止 -タバコによる健康被害を排除
タバコには約4000種類の有害物質が含まれており,喫煙・受動喫煙によって体内に蓄積され健康を害することは科学的に証明されています。健康被害だけでなく,肌や若さなど美容にも大敵であり即刻やめましょう。また,受動喫煙に関しては改正健康増進法により,学校・病院等は原則敷地内禁煙(屋内全面禁煙)が,飲食店・職場等には原則屋内禁煙となりました。
健診・検診の受診 -定期的な健康チェック
2つのけんしん(健診と検診)によって,定期的な健康チェックをしましょう。
また,家族歴の情報を知ることで,自身の病気リスクに備えます。家族は遺伝的素因(身体的特徴,体質,病気のなりやすさ等)と環境要因(生活習慣や住環境等)に類似性があり,家族歴の情報は疾病予防に役立ちます。
健診:定期健康診断,特定健診(メタボ等)など,自身の健康状態を確認し改善することが目的
検診:がん検診など,特定の病気を発見する検査のこと。病気を早期発見し、早期治療につなげることが目的
こころの健康を保つ
「こころの健康を保つ」ということは,ソーシャル・エイジ( social age )を若く保つということ。つまり,若い人たちと同様に,様々なことに興味・関心を持ち,チャレンジする気持ちや行動力を失わないということです。
シニアになり,出不精や「メンドウくさい」が認知症や生活不活発病につながります。特に目に見える障がいを負ってしまった場合,落ちぶれた姿を見られたくないという気持ちになりますね。そのことが悪循環になることは容易に想像できると思います。
障がいがある場合でも,装具や補助移動手段を利用しできるだけ外に出る機会をつくってください。意識的に地域や社会とつながりを持ち,積極的に外出し,楽しく健康に過ごすことを心掛けることにより,フレイル[*4]を予防することができます。
要は、少しオシャレして仲間と「食事やお茶」したり,ウォーキングしたり,人生を楽しむ姿勢が「こころの健康」につながります。
生活不活発病:動かない(生活が不活発な)状態が続くことにより,心身の機能が低下する病気
フレイル:高齢期に病気や老化などによる影響を受けて,心身の活力を含む生活機能が低下した虚弱状態。将来要介護状態となる危険性が高い。
健康寿命を延ばす方法
「うごく」… 適度な運動ー毎日プラス10分の運動
「たべる」… 適切な食生活-1日あと70gの野菜をプラス
「つながる」… 誰かと地域と社会とつながり続ける
「たのしむ」… 人生を楽しむ姿勢
「みてもらう」… 2つのけんしん(健診・検診)で健康チェック
参照
[*1] 内閣府 平成30年度版高齢社会白書
[*2] 厚生労働省 令和元年人口動態統計年報
[*3] 厚生労働省 スマート・ライフ・プロジェクト
[*4] 東京都医師会 フレイル予防
自宅介護や施設入居の概要
こころの準備
ここで知っていただきたい「こころの準備」とは、人生の終末への「こころの準備」ではなく,医療・福祉のサービスを受ける際の「心構え」といったところです。サービスを受ける私たちは、医療領域では「患者・(患者)家族」,福祉領域では「利用者・(利用者)家族」と呼ばれます。つぎのことを心得ておくことが大事ですね。
医療・福祉サービスの選択・決定は、患者・利用者側がする
「そんなことぐらい,知ってますよ」とツッコミが入ったように思います。
それは自己決定の権利,いわゆる自己決定権が,「個人の尊厳を確立する権利」として周知されてきたことを意味します。「個人の自己決定を尊重するという行為」が医療領域だけでなく福祉領域にも浸透してきているんですね。「医療・福祉サービスの選択・決定は、患者・利用者側がする」は,無論尊重されるべきものですが,実際の場面では存外に難しいのです。
それでは,一緒に考えてみましょう。
実際の場面では
医療者・福祉事業者から患者・利用者に対して可能な選択肢が提示・説明され,「理解・納得した上でお選びください」となる。「別の病院・事業所を選ぶこともできます」と添えてきます。
はじめて聞く話ばかり,こちらは情報弱者で素人。サービス提供者は専門家集団ですからプロにおまかせしたいというのが本心ですね。しかしながら,サービス提供者は,可能な選択肢のメリット・デメリットを丁寧に説明してくれるが「選ぶのはあなたですよ」というスタンスは変わりません。
福祉の場面では選択する際に時間な余裕がありますが、医療の場面では「今,決めてください」となる時もあります。そこで「一般的にはどう選ぶケースが多いですか」と問えば,「条件が個々のケースで違いますので,一般論で申し上げることはできません」とクールな言葉が返ってきます。
やはり,事前に関連知識と問題点を知っておくべきですね。
医療サービス領域での「自己決定の尊重」
インフォームド・コンセント( informed consent )
インフォームド・コンセントは,「説明を受け納得したうえでの同意」という意味ですね。医療者側は,「病名,病状,選択可能なすべての治療法,その効果・危険性・見通し,治療にかかる費用などを患者に説明する」[患者の知る権利を守る義務]。患者側は,「その説明を十分に理解・納得したうえで治療法を選択(拒否も含めて)できる」,[自己決定権が保証される],というものです。[*1]
しかし,医療者側・患者側の双方において,インフォームド・コンセントの真意を解せず,「権利と義務」という形式的な理解のもとで運用されると齟齬(そご)が生じざるをえません。
インフォームド・コンセントの実際場面:〇〇病院△△科病棟カンファレンス室にて
こんにちは,主治医の〇〇です。ご家族の確認をさせてください…。それでは,□□さんの今後の治療について説明させていただきます。
現在の病状・病態は,… 。
治療の目的としては,… 。
治療法の概略と効果は,… 。
治療中あるいは後に起こりえる主な副作用・合併症としては,…しばしば…まれに… 。
これまでの説明,よろしいでしょうか?
(心の声)うわー!困った。はじめて聞く言葉も多いし,よくわからない所もあるけど… 。(一応うなずく)
説明の途中でも結構ですので,ご質問等あればしてください。
本治療を受けなかった場合に考えられる結果としては,… 。
本治療以外の治療法について,… 。
治療にかかる費用については,… 。
説明としては以上になりますが,ご理解して頂きましたでしょうか?
ご本人さんも,ご家族の方もご納得いただきましたでしょうか?
(心の声)う~ん,やはり手術しなきゃいけないのか。これが最善の選択なのか? 手術なら上手な医師に執刀してほしい。セカンド・オピニオンで他の医師の意見を聞いてみたいが,… 言い出せない。
本人 家族 (うなずく)
こちらが説明同意書になります。ご署名をお願いします。
署名がないと当院では,治療を続けられません。
分かりました。(署名する)
多くの場合、医師は正確で詳しい専門的説明をinformするのである。ところが患者側は多くの場合、説明の意味を理解できていない。一方、医師側は法理にかなっていなければ、万一の時には公的に裁かれることを恐れる。ここに医師と患者関係の間に法理が介在することで、医師と患者間の理解が断たれてしまっている。そこで署名捺印した理由を問うと、これがなければ治療が始まらないとの答えであった。
セカンド・オピニオン( second opinion )
患者様の自己決定権について 患者に最終的な自己決定権があること、および予定される検査・治療を拒否した
場合にも不利益のないこと、セカンドオピニオンを得る機会があることを説明
します。
リビング・ウィル( living will )
リビング・ウィルは,「終末期医療における事前指示書」であり,もしものときには「私は、延命措置を望まない」という,包括的な事前指示書です。「延命措置とは、回復の見込みがないと診断された患者で、かつ死期が近づいているにもかかわらず、人工呼吸器や透析、胃ろうなどによって生命を維持するための措置」です。[*2]
判断能力のない患者――リビングウィル・事前指示書に法的
効力を認める法律(そのような書面を作成しない者については
近親者の判断に委ねることを定める法律が多い)
福祉サービス領域での「自己決定の尊重」
引用
[*1] 東京都福祉保健局医療政策部医療政策課発行 「知って安心 暮らしの中の医療情報ナビ」 中・高校生編
[*2] 公益財団法人 日本尊厳死協会 「リビング・ウイルとは」
まとめ
「個人の自己決定を尊重するという行為」が医療領域だけでなく福祉領域にも浸透してきています。これは自己決定の権利,いわゆる自己決定権が,「個人の尊厳を確立する権利」として周知されてきたことを意味し好感されます。しかし,一方において「自己決定=自己責任」が 通念として拡がっていることは懸念します。
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