介護ケーススタディ1-高齢の母親が大腿骨骨折

典型事例の概要(仮想)
現状の課題:縁石で転倒して左大腿部骨折。急性期病院で手術し約1ヵ月の治療・リハビリを経て、回復期リハビリ病院に入院中(発症してから3ヵ月経過)。病室外は車イスで移動している。今後に対応すべきことやスケジュールがわからず不安である。
基本情報
氏名:Aさん(80代・女性)
要介護度:介護歴なし
主な疾患:変形性膝関節症.骨粗しょう症
身体状況:独歩可能、時折杖を使用。(発症前の状態)
認知症状:短期記憶の低下はあるが、生活に支障がない。
家族状況等:一軒家に独居、夫は他界。キーパーソンである長男は市外に、長女は県外に在住。
母親が縁石につまずき大腿骨を骨折した。大腿部(太ももの付け根など)の骨折は、高齢の方にとって生活が大きく変わるきっかけになりやすい怪我です。あなたが当事者となった場合、頼れる家族や相談できる親戚が近く住んでいるという方は恵まれていますが、そうでない方は相当な負担がかかることになります。
いったん事態が起きれば,急性期病院での対応(手術治療法の選択・入院等)も大変ですが,回復期リハビリ病院から自宅介護や施設介護へ(療養病床をもつ病院・診療所を経由する場合も)と進む中で,仕事の都合を付けながら,様々な課題をクリアしなければなりません。
本ケースは、介護保険課の介護認定を担当していた私が作り上げた仮想の典型例です。
典型例を通して、今後予想される「退院時期の目安」と「施設探しのスケジュール」に着目して、一般的な見通しをまとめました。
1. 予想される退院時期と治療の流れ
一般的には、骨折から約3ヶ月〜4ヶ月後が、最終的な「病院からの退院(または施設入所)」の時期になります。
- 急性期病院(手術〜約1ヶ月)
- まずは骨を固定する手術を行い、寝たきりを防ぐために数日後からリハビリを開始します。
- 状態が落ち着く1ヶ月前後で、次の「回復期リハビリテーション病院」へ転院するのが一般的です。
- 回復期リハビリ病院(約2ヶ月〜3ヶ月)
- ここがリハビリの「本番」の場所です。大腿部骨折の場合、国が定める回復期リハビリ期間の上限は発症から90日(約3ヶ月)と決まっています。
- 毎日集中的にリハビリを行い、ここでの期限を迎える頃(=骨折から計3〜4ヶ月後)が、実質的な「退院・施設探しのリミット」になります。
もし、お母様が骨折にいたらない靱帯損傷等であれば、回復期リハビリ期間の上限は60日(約2ヶ月)となります。
回復期リハビリテーション病棟とは、急性期の治療を終え、症状が安定した患者に対し、在宅や社会復帰を目指して集中的なリハビリを提供する専門病棟です。主なリハビリの種類には、身体機能の回復を図る「理学療法(PT)」、日常生活動作を訓練する「作業療法(OT)」、発声や飲み込みを改善する「言語聴覚療法(ST)」の3つがあります。専門家による「自宅復帰に向けた集中的なリハビリ」を受けることができますが、「入院できる疾患や期間の厳格な制限」があります。認知症のみなどの場合は原則入院できません。
⚠️ 転院に関する注意点とポイント
- 家族が直接申し込むことはできません
回復期リハビリ病棟への転院には、現在の入院先からの紹介状や、病院間での調整(ベッドの空き状況や受け入れ審査)が必要です。 - リミットは「発症・手術から2ヶ月以内」
国のルールで、大腿部骨折の場合、回復期リハビリ病棟へ入院できるのは発症(手術)から2ヶ月以内と決まっています。そのため、現在の病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)が中心となり、手術後まもなく転院の準備を進めてくれます。
《 参考 》
「回復期リハビリテーション病棟」に入院できる上限日数(国が定める入院期限)
- 【90日間】大腿骨頚部骨折、大腿骨転子部骨折など
- 対象:大腿骨の骨折、骨盤骨折、人工股関節・人工膝関節の置換術後など。
- 理由:骨が折れて手術(ボルト固定や人工骨頭挿入)をした場合は、骨がくっつく(骨癒合)までに時間がかかり、体重をかけるリハビリも段階的に進める必要があるため、長めの90日が認められています。
- 【60日間】大腿骨や股関節の「神経・筋肉・靭帯」の損傷など
- 対象:骨折にいたらない靭帯損傷、腱断裂、筋肉の損傷、関節の神経障害など。
- 理由:骨自体の骨折ではなく、軟部組織(筋肉や靭帯など)の損傷やその手術後の場合は、骨折に比べてベッド上での安静期間が短く、早期から動かせるケースが多いため、上限は60日と短く設定されています。

2. 回復期リハビリ病院退院後の選択
大腿骨頚部骨折の場合、回復期リハビリ病院の入院期間は約2ヶ月〜3ヶ月です。施設探しは、回復期リハビリ病院に「転院した直後(骨折から1〜2ヶ月目)」から動き出すのがベストです。選択は、「リハビリでどこまで動けるようになるか」の予測を病院側と相談しながら進めます。制度的には、回復期リハビリから介護保険リハビリへ移行していくことになります。
状態に合わせて、以下のような選択肢が考えられます。
- 選択肢A:まだリハビリを続けたい・自宅復帰を目指したい場合
- 介護老人保健施設(老健):病院と自宅の中間的な施設です。3ヶ月〜半年ほど入所し、リハビリを継続しながら次の生活場所を考えられます。
- 選択肢B:車椅子生活など、手厚い介護が長期的に必要な場合
- 特別養護老人ホーム(特養):要介護3以上が原則対象。費用を抑えられますが、待機者が多いため退院までに間に合わない可能性があります。
- 民間の有料老人ホーム・サ高住:要介護1〜2でも入居可能。見学から1〜2週間など、比較的短期間でスムーズに入居を決められます。
選択する際の重要な視点
Patient何となく、伝い歩きができるなら自宅へ、車イスままなら介護施設へと考えています。



歩行状態だけで「自宅か施設か」を決めると、在宅介護の破綻や、逆にまだ家で暮らせる方の早期入所を招くリスクがあります。具体的に考えてみましょう。
「伝い歩き=自宅」「車いす=施設」が妥当ではない理由
- 車いすでも自宅で暮らせる
- 間取りのバリアフリー化(段差解消、手すり設置、十分な廊下幅)ができれば、車いすでも自立して、または最小限の介助で自宅生活を継続できます。
- 伝い歩きでも自宅が危険な場合がある
- 伝い歩きができる状態は、裏を返せば「バランスを崩しやすい」「転倒リスクが非常に高い」状態でもあります。
- 夜間のトイレ移動など、目の届かない時間帯の転倒・骨折が原因で、一気に寝たきりになるケースが後を絶ちません。
- 「生活機能」の定義のズレ
- 生活機能には「移動」だけでなく、排泄の管理、入浴、食事摂取なども含まれます。
- いくら歩けても、排泄介助や入浴介助の負担が重ければ、同居家族の限界はすぐにやってきます。
自宅か施設かを分ける「4つの真の判断基準」
身体機能(歩行状態)よりも、以下の4つの要素が自宅介護の継続可否を大きく左右します。
1. 家族の「介護力」と時間的・精神的余裕
- 主たる介護者が高齢(老老介護)ではないか。
- 仕事(ビジネスケアラー)や育児と両立できるか。
- 夜間の排泄介助などで、家族の睡眠が確保できるか。
2. 自宅の「住環境」の対応度
- 玄関、廊下、トイレ、浴室に車いすが入るスペースがあるか。
- リフォーム(段差解消、手すり設置)や、介護ベッドを置くスペースがあるか。
3. 「経済力」(予算)
- 在宅で介護サービスを限界まで組み合わせた場合の費用と、施設に入所した場合の月額費用の比較。
- 介護が長期化(5年〜10年以上)した場合でも維持できる予算設計かどうか。
4. 地域の「介護資源」(フォーマルサービス)
- 小規模多機能型居宅介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護など、24時間対応のサービスが地域にあるか。
- ケアマネジャーが優秀で、家族の負担を減らすプランを組んでくれるか。



「車いすになったから施設」ではなく、「車いすの生活を支えるだけの住環境、家族の体力、介護サービスが自宅に揃えることができるか」で判断するのが確実ですね。
《 参考 》
症状固定までの時期と回復のリアル
- 3〜6ヶ月が機能回復の限界点:筋肉や骨の回復スピードから見て、手術後6ヶ月を過ぎると大幅な足の機能向上は難しくなります。
- 4ヶ月目あたりの状態がベースになる:この時点「車いす」という状態であれば、何もせずに劇的に歩けるようになる可能性は低くなってきます。
- ただし「維持」のためのリハビリは必須:高齢者の場合、リハビリをやめると「症状固定」ではなく「一気に寝たきり(廃用)」へ悪化します。
3. 今後のベストな進め方(老健の活用)
今すぐ「車いすだから介護施設(特養など)」と最終決定してしまうのは、少しもったいないかもしれません。症状固定の目安である「6ヶ月目」まで、まだあと3ヶ月あるからです。
- まずは「老健」へ入所する
- 介護申請を行い、病院から老健へ移ります。
- 発症から「6ヶ月(残り3ヶ月)」までリハビリを粘る
- 老健の環境で、もう一伸びできるか挑戦します。
- 6ヶ月目の時点で最終判断する
- 自宅復帰ができる判断した場合:手すりや福祉用具を整えて「自宅復帰」を準備します。
- 施設入居が妥当と判断した場合:そこが本当の症状固定とし、長期滞在できる「介護施設」への移行手続きを始めます。「維持」のためのリハビリは続けます。
老健はまさに、この「自宅に帰れるレベルまで戻るか、施設にするか」を見極めるための執行猶予期間として使うのに最適な場所です。
ソーシャルワーカーさんに相談する際は、「老健で発症後6ヶ月目までリハビリの様子を見て、自宅か施設かを最終判断したい」と伝えると、先方も今後のスケジュールを組みやすくなります。
老健から次の施設(あるいは自宅)に移るための準備期間として「3ヶ月」が使えます。もし、自宅にお戻りなる場合は、ご家族の中で「自宅に迎えるための環境(同居人の有無や手すりの設置など)」の準備が必要に




4. 老健から次のステップへの準備と手続きをどうするか
老健(介護老人保健施設)からの退所手続きは、まず施設に常駐している「支援相談員(ソーシャルワーカー)」に次の希望を伝えることから始まります。老健は原則として3〜6ヶ月程度の短期入所を前提とした在宅復帰支援施設であるため、早めの行動が不可欠です。
老健の支援相談員は、在宅復帰の調整や次の施設探しをサポートしてくれる頼れる専門窓口です。まずは現在の入所期間や本人の回復具合を確認するためにも、お早めに施設の相談員へ声をかけてください。
「自宅に戻る(在宅介護)」か「別の施設へ移る(施設入居)」かによって、準備と手続きのステップが分かれます。それぞれの具体的な手順は以下の通りです。
パターンA:自宅に戻る場合(在宅復帰)
自宅での受け入れ態勢を整えるため、地域のケアマネジャーとの連携が必要になります。
- 支援相談員への意思表示
- 老健の支援相談員に「自宅に戻りたい」という意思と時期を相談します。
- 居宅ケアマネジャーの選定
- 自宅での介護プラン(ケアプラン)を作るため、地域の居宅介護支援事業者を選びます。
- 退所前カンファレンス(会議)の実施
- 老健のスタッフ、自宅を担当するケアマネジャー、家族、本人が集まり、注意点や必要なサービスを話し合います。
- 住環境・介護サービスの整備
- 必要に応じて、手すりの設置などの住宅改修や福祉用具(ベッドや車椅子など)のレンタル、訪問介護・通所介護(デイサービス)の手配を行います。
- 退所手続き
- 老健と精算を済ませ、正式に退所します。


パターンB:他の施設へ移る場合(施設入居)
特別養護老人ホーム(特養)や有料老人ホームなど、次の住まいを探して契約します。
- 支援相談員への相談
- 次の施設を探したい旨を伝え、本人の身体状況(要介護度や医療依存度)に合う施設の種類を教えてもらいます。
- 候補施設の選定・見学
- 特養(原則要介護3以上)、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などから候補を選び、実際に見学します。
- 入所・入居の申し込み
- 希望する施設へ直接、または書類を通じて申し込みを行います。特養の場合は待機期間が発生することが多いため、複数に申し込むのが一般的です。
- 判定面談・契約手続き
- 次の施設での受け入れ判定(面談や書類審査)を通過後、契約手続きを進めます。
- 老健の退所と移動
- 老健へ退所日を確定させて報告し(通常1〜3ヶ月前)、費用の精算を終えて次の施設へ移動します。
老健から特養や民間有料老人ホーム・サ高住への準備と手続きは、以下の記事が参考になります。老健にいるということは、介護保険被保険者証(要介護1〜5)の認定を受けている状態です。

















