介護ケーススタディ2-母親がアルツハイマー型認知症に

典型事例の概要(仮想)
現状の課題:母親がアルツハイマー型認知症の診断を受けた。娘は水木休みでそれ以外は終日勤務(7時~19時、通勤時間を含む)で、日中時間は独居となる。昼食は娘が準備しても認識がなく食べていない。仏壇のものは勝手に食べるため、不衛生なので菓子パンを置いている。靴が汚れており、徘徊している可能性もある。兄弟で協力して介護していきたいが、今後に対応すべきことやスケジュールがわからず不安である。
基本情報
氏名:Bさん(78歳・女性)
要介護度:介護歴なし
主な疾患:高血圧、糖尿
身体状況:屋外歩行可能(自立、補助具なし)、食事行為(自立)
認知症状:記憶障害(直前のことを覚えていない、同じことを繰り返す)、「物盗られ妄想」の症状
家族状況等:一軒屋に娘と二人暮らし、夫は他界。長男は県外に、次男家族は市外に在住。
お母様がアルツハイマー型認知症と診断されて、今後について大変ご心配のことと思います。アルツハイマー型認知症は、物忘れから始まり、時間の感覚や判断力が低下し、徐々に身の回りのこと(服薬、火の元、金銭管理)が難しくなっていきます。アルツハイマー型認知症の特徴として、症状はゆっくりと始まり、着実に進行していきます。
ご家族の心構えとして最も重要なのは、
「否定しない・叱らない」
「一人で抱え込みすぎない」
「一軒家や一人暮らしでの安全と生活の限界を見極める」
の3点です。
病気の進行とともに、今後の生活環境を現実的に見直していく必要があります。
1. 家族の基本的な心構えと対応
- 自尊心を傷つけない:「物忘れ」や「同じことを繰り返す」言動に対し、否定したり叱ったりすることは絶対に避けましょう。本人の不安や混乱、怒りを招くだけでなく、関係性が悪化する原因になります。
- 環境を整え危険を回避する:例えば、一軒家での一人暮らしは、火の不始末(コンロやストーブ)や薬の飲み忘れ、徘徊など事故のリスクが伴います。ガスの元栓を閉める、鍵を管理するなど環境面の安全対策を急ぎましょう。
- 「今できること」を大切にする:できない部分ばかりに目を向けず、本人が今できる家事や役割を尊重し、穏やかに過ごせる時間を大切にすることが本人の安心に繋がります。
一般に、進行や生活の変化に伴い、お母様の状態に合わせて以下のような公的サポートや介護施設を段階的に検討していくことになります。
2. 認知症状の段階的進行と対応の変化
認知症の進行具合によって、利用できるサービスや最適な環境は変わります。
- 軽度(初期):約1〜3年
- 症状: 「記憶障害」から始まります。直前の出来事を忘れる、日付や時間の感覚が曖昧になる、新しいことが覚えられない。
- 生活: 料理の段取りが悪くなるなどの変化はありますが、一人暮らしや自立した生活がまだ可能な段階です。
- 本人の心理: 自分の異変に気づいており、不安や焦り、落ち込みを強く感じやすい時期です。
- 対応: 一人暮らしを続ける場合、火の元センサーの設置や、訪問介護による調理・服薬・掃除のサポートが必須となります。
- 中等度(中期):約2〜3年
- 症状: 「見当識(けんとうしき)障害」が進みます。時間や場所の感覚がさらに低下(徘徊の兆候や道迷い)、日常の判断力低下、一人での料理・入浴が困難になる。
- 生活: 服の着方がわからない、お風呂の入り方がわからないといった症状が出始め、日常生活の多くに手助け(家族や介護サービス)が必要になります。
- 特徴: 道に迷って歩き回る「徘徊」や、物を盗まれたと思い込む「物盗られ妄想」などの症状が出やすい時期です。
- 対応: 自宅での生活が難しくなるため、デイサービス(通所介護)の利用頻度を増やすか、ショートステイ(短期入所)を併用します。この段階で施設入居を検討するご家庭が多いです。
- 重度(末期):約3年〜数年
- 症状: 脳の萎縮が全体に広がり、言葉でのコミュニケーションや意思疎通が徐々に難しくなります。自分のいる場所や家族の顔が分からなくなる、排泄や衣服の着脱に全面的な介助が必要になる。
- 生活: 自力での歩行や座位の保持が難しくなり、寝たきりの状態へと移行します。
- 特徴: 食事をうまく飲み込めない「嚥下(えんげ)障害」が見られるようになり、多くの場合は老衰や誤嚥性肺炎などの合併症を伴いながら穏やかに最期を迎えます。
- 対応: 常時介護が必要になるため、特別養護老人ホームなどの施設入居が中心となります。
3.要介護度の段階と状態の目安
要介護度とは、介護保険制度において「日常生活でどの程度介護(介助)が必要か」を7段階に区分した指標です。心身の状況に応じて「要支援1・2(予防給付)」と「要介護1〜5(介護給付)」に分かれ、受けられるサービスの種類や利用上限額が異なります。
要介護度の段階と状態の目安
要介護度は、数字が大きくなるほど介護の手間が増える仕組みです。
- 要支援1:基本的な日常生活は一人でできますが、掃除や調理など一部に支援が必要です。
- 要支援2:要支援1より支援範囲が広く、立ち上がりや歩行などに少し不安があり、見守りや手助けが必要です。
- 要介護1:部分的な介護が必要で、立ち上がりや歩行が不安定になることがあります。
- 要介護2:食事や排せつ、入浴など生活全般にわたって介助が必要な状態です。
- 要介護3:自力での移動が困難になり、ほぼ全面的な介助が必要です。
- 要介護4:日常生活のあらゆる場面で介助が欠かせず、意思疎通が難しくなることもあります。
- 要介護5:寝たきりの状態で、食事や排せつ、着替えなどが自分では一切できず、常に介護が必要です。 [

4.受けられる介護保険サービスの種類
介護保険サービスは、大きく「自宅で受けるサービス」と「施設に入所して受けるサービス」に分けられます。
自宅で受けるサービス(居宅サービス・地域密着型サービス)
住み慣れた家での生活を継続するためのサービスです。
- 訪問介護・訪問入浴:ホームヘルパーが自宅を訪問し、身体介護(食事・入浴・排せつ)や生活援助(調理・掃除)を行います。
- 訪問看護・訪問リハビリ:看護師やリハビリ専門職が自宅を訪問し、療養上の世話や機能訓練を行います。
- 通所介護・通所リハビリ(デイサービス・デイケア):施設に通い、日帰りで入浴や食事、機能訓練、レクリエーションを受けます。
- 短期入所生活・療養介護(ショートステイ):短期間、施設に宿泊し、介護や機能訓練を受けます。
- 小規模多機能型居宅介護:「通い」「泊まり」「訪問」を柔軟に組み合わせて一つの事業所から受けられるサービスです。
施設に入所するサービス(施設サービス)
自宅での生活が困難になった場合、施設に入所して受けるサービスです。
- 特別養護老人ホーム(特養):常に介護が必要で、自宅での生活が困難な方が入所し、生活全般の介助を受けます。
- 介護老人保健施設(老健):病院から退院したばかりなどで、自宅復帰を目指す方向けのリハビリ中心の施設です。
- 介護医療院:長期的な医療と介護の両方が必要な方向けの施設です。
- 認知症対応型共同生活介護(グループホーム):認知症の症状がある少人数(5〜9人)のグループで、共同生活を送りながら専門スタッフの支援を受けます。
サービスの利用について
これらのサービスは、要介護度ごとに定められた「支給限度額」の範囲内であれば、所得に応じて1〜3割の自己負担で利用できます。具体的にどのようなサービスをどの頻度で利用するかは、ケアマネジャーが作成する「ケアプラン」に基づいて決定されます。
5. 今すぐやるべきアクション
お母様が安全に暮らせる環境を整えるために、まずは以下の相談窓口へ連絡してください。
- 地域包括支援センターへの相談: 市区町村が設置している高齢者の総合相談窓口です。まずは「要介護認定」の申請手続きを行い、ケアマネジャーを紹介してもらいましょう。
- ケアプランの作成: ケアマネジャーがお母様の状態に応じた「介護サービス計画(ケアプラン)」を作成し、訪問介護やデイサービスの手配をしてくれます。

具体的なケアプランを通して
前提条件: 娘と二人暮らし。娘は水木休み、それ以外は勤務。通勤時間を含めて、朝7時過ぎから出発して帰宅は夜7時ぐらい。要介護度は「要支援2」と認定された。
娘様が平日に長時間不在(朝7時〜夜7時)となるため、娘様の勤務日(月・火・金・土・日)の日中をいかに安全に過ごすかがプランの鍵になります。
要支援2の限度額(月額10万5,310円)にしっかり収まり、娘様の負担を減らせる「標準的な1週間のスケジュール例」(たたき台)をご提案します。
限度額に収まる最適な「介護予防サービス計画書(ケアプラン)」(参考)
娘様の出勤日に合わせて、週3回のデイサービスを軸にするのが最も標準的で現実的です。
- 月曜日:デイサービス(認知症対応型)
- 朝8:30頃にお迎え ➔ 夕方17:00頃に帰宅
- 火曜日:自主的な過ごし方(または福祉用具の利用)
- ※火曜日は在宅。お昼ご飯の準備や、GPS機器等での見守り体制を整えます。
- 水曜日:娘様のお休み(自宅で一緒に過ごす・受診など)
- 木曜日:娘様のお休み(自宅で一緒に過ごす・息抜きなど)
- 金曜日:デイサービス(認知症対応型)
- 朝8:30頃にお迎え ➔ 夕方17:00頃に帰宅
- 土曜日:デイサービス(認知症対応型)
- 朝8:30頃にお迎え ➔ 夕方17:00頃に帰宅
- 日曜日:自主的な過ごし方(家族で調整、またはショートステイの検討)
このプランのメリット
- 孤立と認知症進行の防止:娘様の不在時に一人で過ごす時間を減らし、デイサービスで専門スタッフや他者との交流・刺激を得られます。
- 安全の確保:火曜日と日曜日の週2日だけ在宅日になりますが、週3回デイサービスに行くことで生活のリズムが整いやすくなります。
要支援2で活用したい具体的なサービス
1. 認知症対応型通所介護(認知症デイサービス)
少人数で手厚いケアが受けられるため、環境の変化が苦手な認知症の方でも落ち着いて過ごせます。一般的なデイサービスよりスタッフの目が届きやすく、徘徊や不穏な動きがあっても安心です。
2. 福祉用具レンタル(見守り・安全対策)
- 認知症老人徘徊感知機器:玄関を開けたらチャイムが鳴るセンサーや、服や靴につける小型GPSなどをレンタルできます(要支援2では原則対象外ですが、認知症の主症状がある場合は例外給付として認められる可能性が非常に高いです)。
- 手すり・歩行器:足元のふらつきがある場合、転倒予防として月数百円の自己負担でレンタル可能です。
3. 短期入所生活介護(ショートステイ)
「今週の土日は娘様がどうしても外せない用事がある」という場合などに、1泊2日〜数日間、施設に宿泊できるサービスです。要支援2でも限度額の範囲内で月数回であれば利用可能です。
今後の具体的な進め方
このスケジュールを実現するためには、お住まいの地域を担当する「地域包括支援センター」への相談が必要です。
ケアマネジャーに相談する際は、以下のポイントを伝えるとスムーズです。
- 「娘の仕事が月火金土日で、朝7時〜夜19時まで不在になる」
- 「不在時間に対策を立てたいので、娘の出勤日に合わせて週3回デイサービスを入れたい」
- 「認知症の症状があるので、認知症専門のデイサービスや、徘徊対策のGPSレンタル(例外給付)を検討したい」
ケアマネジャーはこれらの条件をもとに、限度額に収まる最適な「介護予防サービス計画書(ケアプラン)」を無料で作成してくれます。
関連Q&A
userデイサービス(通所介護)は、土日も利用できますか?



娘様のお休みが水・木であれば、出勤日となる「土・日」の預け先が一番の心配事ですよね。多くの事業所が週末も稼働していますので、安心して計画を立ててください。
土日利用を考える際のポイント
- 事業所によって営業日が異なる:すべてのデイサービスが土日営業しているわけではありません。「土曜のみ営業」「日祝は休み」「年中無休」など様々です。
- ケアマネジャーへの要望が不可欠:契約前の段階で、担当のケアマネジャーに「土日に利用できるデイサービスを探している」と必ず伝えてください。条件に合う施設をピックアップしてくれます。
- 祝日の営業確認も重要:月曜や金曜が祝日(ハッピーマンデーなど)になった場合も出勤であれば、「祝日も営業しているか」を合わせて確認しておくと安心です。
もし希望のデイサービスが日曜日休みだった場合の代替案
もし近隣に日曜日営業のデイサービスが少ない場合でも、以下の方法で日中の安全を確保できます。
- ショートステイ(短期入所生活介護)の利用:土曜日の朝から日曜日の夜(または月曜の朝)まで、施設に1泊〜2泊宿泊してもらうサービスです。
- 小規模多機能型居宅介護の利用:前述の通り、こちらは「通い・訪問・泊まり」がセットの年中無休サービスなので、土日の対応も非常にスムーズです。
- 訪問介護(ヘルパー)の組み合わせ:デイサービスが使えない曜日だけ、ヘルパーさんに昼食の用意や安否確認のために1日数回訪問してもらう方法です。



デイサービスの利用したいのですが、勤務日は「朝7時過ぎ~夜7時」まで家を留守にします。
一般的なデイサービスの送迎時間(朝9時頃〜夕方5時頃)とどうしてもズレが生じてしまいますよね。大丈夫でしょうか?



結論から申し上げますと、鍵をデイサービス側に預けて「解錠・施錠」をしてもらうことは可能です。これを「鍵預かり」と呼びます。
ただし、いくつかの注意点と、娘様の時間帯(朝7時〜夜7時)に合わせたより安心な選択肢がありますので解説します。
1. デイサービスに鍵を預ける場合の仕組み
多くの事業所では、家族が留守の家にお迎え・お送りに行くため、鍵を預かる対応(鍵預かりに関する契約書や同意書の締結)を行っています。
- 朝の対応:スタッフが合鍵で家に入り、お母様の着替えや支度を手伝って連れ出します。
- 夕方の対応:家の中までお母様を送り届け、鍵を閉めてスタッフが退室します。
- 注意点:夕方5時頃に帰宅した場合、娘様が帰る夜7時までの約2時間は、お母様が一人で留守番をすることになります。アルツハイマー型認知症の診断を受けられたばかりで、夕方に2時間一人にさせるのは、火の不始末や徘徊(外に出てしまう)の面で大きな不安が残ります。
2. 娘様のスケジュール(朝7時〜夜7時)に最適な代替案
夕方の「空白の2時間」を埋め、朝早い出発にも対応できる、より安全性の高いサービスが2つあります。
- 選択肢①:小規模多機能型居宅介護(おすすめ)
- 一般的なデイサービスよりも時間の融通が利くのが最大の特徴です。
- 事業所によっては、「朝7時半にお迎え」「夜7時(娘様の帰宅直前)まで滞在して夕食を食べてから送り届け」といった柔軟な対応をしてくれるところがあります。これなら、お母様が家で一人になる時間をほぼゼロにできます。
- 選択肢②:デイサービス + 訪問介護(ヘルパー)の組み合わせ
- 夕方5時にデイサービスが鍵を使ってお母様を家に送り届けます。
- その後、娘様が帰るまでの間の時間(例:18:00〜18:30など)にヘルパーさんに訪問してもらい、夕食の準備や安否確認、お話し相手になってもらうことで、一人の時間を減らしリスクを下げます。
- 選択肢③:キーボックス(鍵の保管庫)の活用
- デイサービスに直接鍵を預ける以外に、玄関のドアノブなどに暗証番号付きの「キーボックス」を設置し、その中に鍵を入れておく方法もあります。これなら複数のサービス(デイとヘルパーなど)が入る場合でも、鍵の受け渡しがスムーズになります。



まずはケアマネジャーに「朝7時過ぎに出て、夜7時に帰るため、その間をお母様一人にしたくない」とそのまま伝えてください。
地域の事業所の中から、延長利用ができるデイサービスや、小規模多機能型居宅介護の空き状況を調べてくれます。



認知症対応型ディサービスを週3回(月金土)。私は火・水・木・日曜日が終日面倒をみることになります。息抜きできません。限度額内で、ショートステイも入れたいのですが…。



予算内には収まりますが、要支援2でショートステイを使うには以下の2つのハードルがあります。
1. 連続して使える日数に制限がある
要支援のショートステイは、原則として「認定有効期間の半数を超えてはならない」などのルールがあり、ケアマネジャー(地域包括支援センター)の判断によって「月におおむね数日から1週間程度まで」と制限されることが多いです。
2. 水曜日・木曜日の利用は「お迎え」の手間が発生する
あなたが「水木」に完全に息抜きをするため、火曜日の夕方から木曜日の夕方までショートステイに預けたい場合、火曜日の夕方の送りや、木曜日の夕方のお迎えを誰がやるかという問題が出てきます。
ご兄弟(県外の兄・市外の弟)に協力してもらう具体策
あなたの「水木日」の負担を減らすため、以下のように役割を割り振ってみてください。
- 【市外の弟家族】にお願いすること(水・木の送迎バックアップ)
- あなたが水曜日にしっかり休めるよう、「火曜の夕方にショートステイへ送る」または「木曜の夕方にショートステイから実家へ連れ帰る」のどちらかの送迎(車での移動)を弟さんに代行してもらう。
- 【県外の兄】にお願いすること(ショートステイの費用負担)
- ショートステイを利用すると、介護保険の枠とは別に「滞在費」や「食費」が全額自己負担(1日あたり約1,500円〜3,000円)として実費でかかります。
- 「ケアプランの枠内には収まるけれど、実費分が高くなるから、お兄ちゃんにこのショートステイ代(月2万〜3万円程度)を援助してほしい」と具体的に交渉する。
📅 日曜日の負担を減らすアイデア
日曜日はデイサービスが休みのところが多いため、一番負担が大きくなりやすい日です。
- 弟家族に「月1回、日曜日だけ実家に来てお母さんをみてほしい」と定例化をお願いしてみましょう。その日だけはあなたが完全に外出して羽を伸ばすことができます。



まずは担当のケアマネジャー(または地域包括支援センター)に、「水木日に自分が休めるように、予算内でショートステイや小規模多機能型居宅介護を組み合わせたい」とストレートに相談してみてください。
ご兄弟に協力して頂けるよう、以下の記事を参考にしてください。










